◆韓国漁船の爆撃被害で、独島領有意識が芽生える－1948年

さらに、翌1948年6月に、竹島（独島）沖にイカ漁で出漁した朝鮮の小型漁船団（14隻）がアメリカ空軍の軍用機が爆撃で被害を受け、漁民14名が死亡するという惨事が発生しました。当時、竹島（独島）はアメリカ軍の管理下にあり、米空軍は同島を爆撃演習地として使用していました。それを知らない朝鮮の漁船が竹島（独島）に近づいてしまい、この惨事につながったわけです。

米軍は、竹島（独島）を日本領と認識していたので、SCAPIN-677（占領軍司令部の日本政府に対する指令677号）で、竹島（独島）の行政権を停止し、かつSCAPIN-1055で、同海域での日本漁船の操業を禁止し、かつ、日本政府に対して竹島（独島）を爆撃演習地として使用する旨の通告を行っていたので、これで問題は生じないと考えていたわけです。ところが、朝鮮のイカ漁の漁船がやってきた。これは想定外のことでした。

この死者の出た被害に、当時の朝鮮の人たちは強く反発し、アメリカを非難しました。この犠牲者の葬儀に、朝鮮の指導者たちや人々が列席し、このアメリカ軍の仕打ちに悲憤慷慨するという、たいへんな騒ぎになったわけです。とはいえ、韓国の漁民たちも無報告・無許可の出漁であったということも事実です。
ともかく、こうした事故もきっかけに、竹島（独島）は、韓国の人たちにとって、よく知られる島になっていったわけです。

◆大韓民国の成立と李承晩の対馬割譲要求

1948年8月15日に大韓民国が成立します。李承晩が初代大統領に就任しました。
李承晩は、建国（大統領就任）3日後の同年8月18日、突然、「対馬は韓国領である」とする声明を発表しました。これに対応して、韓国外交部は9月に入り、「対馬島属領に関する声明」を出しました。
これをきっかけに、対馬返還要求を求める国会議員の動きが活発化します。そして、李承晩大統領は翌1949年1月7日、年頭の記者会見で「対馬を返還すべき」と話しました。こうした韓国政府の対応で、マスコミや世論の関心が、一気に「対馬」に移りました。建国からしばらくは、竹島（独島）の関心は薄れ、竹島（独島）を取り上げたニュース記事がほとんど見られなくなります。

李承晩が、なぜ対馬を要求し始めたかは不明です。かつて、対馬が朝鮮領であった歴史はなく（これは後にアメリカからも指摘されます）、韓国は対日戦争の戦勝国という意識が強く、戦勝国として対馬の割譲を望んだのではないかと思います。

李承晩大統領の対馬領有権要求（同年 8 月 17 日）より前の1948年8月5日付で、憂国老人会（Patriotic Old Men’s Association）という民間団体がマッカーサーに対して、対馬・独島・波浪島の返還を請願する書簡を送っています。この書簡の署名は、憂国老人会会長の曺成煥（チョ・ソンファン、조성환）ですが、その文案は崔南善（チェ・ナムソン、최남선）であったともされています。
これが李承晩の対馬領有権要求の背景になっていたということだろうと思います。つまり、すでに、韓国の建国前から、対馬・独島・波浪島の返還を求める動きがあり、李承晩は、こうした声を受けて、対馬領有権要求を行ったとも考えられます。

このように、「もともと朝鮮の領土であった対馬の返還」という世論が高まっていたことについて、韓国政府の官僚や閣僚に戸惑いが大きくなったようです。一部の首脳が「李承晩は対馬を返還しろと言っているが、韓国にそんな権利があるのか」といったことについて、崔南善に相談するという行動を起こしたりしています。

のちに、この対馬の割譲（返還）要求に加えて、竹島（独島）と波浪島（パラン島）を韓国領とすることを講和条約（のちのサンフランシスコ平和条約）に盛り込むよう条約起草国のアメリカに働きかけることが、韓国政府・李承晩政権の基本方針となりました。
（つづく）

※下の写真は、1947年8月16日に、鬱陵島・独島学術調査に出発した 朝鮮山岳会のメンバーたち。歴史学者や考古学者らも加わった。
そのメンバーの洪鍾仁（ホン・ジョンイン、잡지명）の回顧によれば、鬱陵島調査を提議したのは宋錫夏（ソン・ソクハ、송석하）。宋錫夏は「何の値打ちもない無人島の石島」である独島に対して日本人たちがいつかは自分たちの領土であると主張するかもしれないので早く現地調査に着手し、独島の現存状態を韓国国民に広く知らしめ独島が韓国の領土であると言う確固たる信念をもつようにしなければならないと提議したといわれる。
出典：鄭秉峻（チョン・ビョンジュン、 정병준 ）「解放後韓国の独島に対する認識と政策（1945－51）」

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