◆アメリカの最終回答「独島の韓国領有は認められない」--いわゆる「ラスク書簡」

しかし、8月に入って、どんでん返しが待っていました。
前述のとおり、韓国政府の独島・波浪島の要求について、アメリカ国務省では、北東アジア部日本課長補佐のフィアリーらがこの2島の調査を行っていました。その結果、この2島の詳細が明らかになってきました。
これに関して、国務省・北東アジア課長補佐のフィアリー(Robert Appleton Fearey)によるアリソン(John Moore Allison)極東担当国務次官補宛ての同年8月3日付の報告書があります。フィアリーは、前述のボグスの報告とともに、7月19日の梁裕燦・ダレス会談の内容を報告し、独島および波浪島に関する見解を述べています。これが「どんでん返し」につながっています。
NARA Confidential U.S. Lot58 D118 and D637 Records of the Office of Northeast Asian Affairs, Japan Subject Files, 1947-1956, Reel39
http://ja.wikisource.org/…/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%8…

さらに7月19日の第2回目の梁裕燦・ダレス会談における、ダレスの2島の質問に対する韓豹頊一等書記官の回答も問題になったようです。つまり、「韓国政府は領有を求めている2島の地理的位置やその概要を把握していない」ということです。

こうしたことから、アチソン国務長官は8月7日 、ムチオ駐韓米国公使に対して「韓国の領有権要求は受け容れられない」との電文を送りました。これに基づいて、ムチオ公使は韓国政府に対して「早急に詳細な回答が得られなければ、、韓国側の領有権の要求を受け入れられない」との意向を伝えたわけです。
韓国政府はこの時点でも、波浪島の位置を特定できずにいましたから、韓国政府はムチオ公使に対して、独島の緯度・緯度とともに、波浪島の要求を放棄することが伝えられたとのことです(『大韓民国史資料集 30 李承晩関係書翰資料集 3』国史編纂委員会、1951、110 頁)。

そして、同年8月10日、アメリカ政府は、韓国政府に対して国務次官補のラスク(David Dean Rusk)名の文書で、アメリカ政府(というか、対日講和条約の起草国)としての一連の交渉の最終回答を送付しました。いわゆる「ラスク書簡」(Rusk note)です。

韓国の独島研究者や言論・報道を通じて、この「ラスク書簡」を「ラスクの私信であるから、何の効力もない」と主張する馬鹿者がいますが、とんでもない間違いです。韓国の一連の対米要求と交渉についての、条約起草国としてのアメリカの公式な最終回答です。

この書簡には、次のような文言が記述されていました。

(1)独島、もしくは竹島、Liancourt Rocks として知られている島については、我々の情報によれば、日常的には人の居住しないこの岩礁は、韓国の一部として扱われたことはなく、1905 年頃からは、日本の島根県隠岐島庁の管轄下にありました。この島について、韓国によりこれまで領土主張されたことがあるとは思われません。
“As regards the islands of Dokdo, otherwise known as Takeshima or Liancourt Rocks never treated as part of Korea and, since about 1905, has been under the jurisdiction of the Oki Islands Branch Office of Shimane Prefecture of Japan. The Island does not appear ever before to have been claimed by Korea.”

(2)「波浪島」が本条約で日本により放棄される諸島に含まれるべきという韓国政府の要求は取り下げられたものと理解しています。(これは前述の通り、韓国政府はその要求を取り下げた)

(3)マッカーサーライン(SCAPIN-1033)は日本国との平和条約の締結後は有効ではない。米国政府は、明確に日本国との平和条約以後に効力を持たない、と回答しつつ、韓国政府は対日講和条約第99 条の規定(日本は希望する連合国と速やかに漁業協定の交渉をしなくてはならない)の利益をうけることができる。
“It is desired to point out, however, that the so-called MacArthur line will stand until the treaty comes into force, and that Korea, which obtains the benefits of Article 9, will have the opportunity of negotiating a fishing agreement with Japan prior to that date.”

なお、これらに関連して、この書簡では、「韓国の独立日は 1945 年 8月 9 日ではない。」との回答も盛り込まれました。これは、 韓国政府がポツダム宣言を根拠として、日本にすべての主権を放棄するように要求していることに対する、アメリカ政府の回答です。そのアメリカの回答とは「アメリカ政府はポツダム宣言の受諾をもって全ての主権を日本が放棄したとは思わない」というものでした。

これについては少し説明を要します。韓国政府は「ポツダム宣言」を根拠に、SCAPIN-677およびSCAPIN-1033を領土・領海の画定と解釈し、領土要求を行ったり、あるいは日本漁船の拿捕・銃撃を正当化してきていたわけです。アメリカは、この回答で、こうした韓国政府の正当性を否定したわけです。これについては、次回の第5話以降で、詳しく触れます。

「ラスク書簡」の全文(英文)は、以下のサイトにあります。
https://en.wikisource.org/wiki/Rusk_note_of_1951