ライター:姜 永根(実業家、渡来人歴史研究者)

去る12月18日に、大津市にある「渡来人歴史館」において、〈リニューアル記念講座〉を開催し、約40名の参加者のもと、2時間ほど下記の演題でお話しました。その概要です。
★演題『近代の渡来人、在日コリアンはなぜ生まれたのか?』
1.なぜ、朝鮮半島は日本に併合されたのか?
(1)19世紀の李氏朝鮮
①深淵な小中華思想、②一神教的な朱子学、③強固な身分制度、④頑なな衛正斥邪、⑤時代に合わない勢道政治、⑥相変わらずの党争
(2)日韓併合に至る出来事
①征韓論と日朝修好条規(江華島条約)
②金玉均のクーデター(甲申政変)と福沢諭吉の脱亜入欧
③日清戦争と大韓帝国成立
④第一次日韓協約締結
⑤日露戦争と第二次日韓協約締結
⑥安重根の伊藤博文暗殺
2.なぜ、私たちの先祖は玄界灘を渡ったのか?
(1)第1段階(1910年~1920年)
①武断政治
②土地調査事業
③3・1独立運動
(2)第2段階(1920年~1931年)
①文化政治
②朝鮮半島のインフラ整備
③朝鮮産米増殖計画
④日本への渡航者の増加
(3)第3段階(1931年~1938年)
①満州事変勃発と満州国の成立
②自由渡航
(4)第4段階(1938年~1945年)
①日中戦争勃発
②国家総動員法の公布
③強制連行と徴用
④創氏改名
⑤徴兵制度
3.渡日の理由
(1)植民地下朝鮮の経済状況の変化
土地調査事業により土地を失う農民が増加し、加えて朝鮮産米増殖計画が生み出した経済的要因が大きく作用。また各種税金や公金などの支払いの増加など、労働力移動の流れの延長で渡航した。
(2)文化的・社会的変化
1920年~30年にかけて学校に通う朝鮮人が増えた。日本語を習得した者は日本で働くことの障害が少なかった。日本の情報や近代文明に息吹に接することによって渡航が増えた。
(3)仕事を求めて
植民地状況下で、公務員、教職、警察官など公職の多くは日本人が占め、朝鮮人には就職口がない状態で、仕事を求めて日本に渡る者がいた。
(4)社会インフラの整備
植民地期に交通機関(鉄道や連絡船、道路など)、また通信機関(郵便局)が整備されていったことも渡日を促進した。
(5)中間層が渡日
渡日を選んだのは、朝鮮社会の最下層ではなく中間層に属する者たち。最下層の者は、日本に行くための経済的・文化的な能力を備えておらず、朝鮮内の都市に出たり、朝鮮北部や満州に移住したりした。中間層は朝鮮内では社会的上層を望めないため渡日の道を選ぶ者が多かった。
(6)漫然渡航
仕事のあてもなく、「日本行けば何とかなるだろうと」という考えで渡航する者もいた。
(7)チェーン・マイグレーション
最初に渡航した者が、故郷の親戚や知り合いに仕事を紹介したり、生活上の情報を伝えたりすることによって、連鎖的に渡航者が増えた。これはかなりの数にのぼる。
(8)強制労働・強制連行
強制労働とは、日中戦争期に、日本人男性が兵士に動員されたため労働力が不足することになった内地に、国家計画に基づいて、朝鮮人男性を労働者として導入したことを指す。
また、日本政府当局が、「集団移入」と呼んでいた〈強制連行〉は、1939年から募集し、1942年からの官斡旋、1944年からの徴用の3方式で行われた。
4.アンケート(印象に残ったこと、興味深かった内容、感想など)
・在日コリアンの方がすべて強制連行ではなく、自ら進んで渡日した方がいるという事実を知りませんでした。国籍についてはなぜ?と思うことがよくあります。国籍よりも、自分の生まれ育ったその環境、社会的、文化的影響の方が大きいのでは?(60代女性)
・なぜ歴史を勉強するかというお話が印象に残りました。韓国の大学に行かれて何をまず感じられたか知りたいと思いました。次回はディスカッションの場に参加させていただきたいです。質疑応答が面白かったです。(60代女性)
・冒頭で「韓国が好きで本名で生きてきた」「今の韓国は嫌いです」というお話が印象に残りました。
日本と韓国の教育の違いがよくわかりました(歴史について)。(60代女性)
・右派、左派でなく中立はよいが、本当に日本は悪くなかったのか?日本の植民地支配は?生の韓国人の言うことを聞きたい。(70代男性)
・李氏朝鮮の状況、自由意思で日本に来た人が多かったこと(60代男性)
・戦後、現代の在日コリアンの話がもっと聞きたかったです。(40代男性)
・歴史の真実を知ることによって、けん韓、反日という感情は生まれない。人間対人間のつきあいである。(70代男性)
・日本の今日の文化は半島からの伝来であり、ますます関心を深めます。(90代男性)
・近代史(日韓の)に関してはあまり知識がなかったので、理解するのに時間を要しましたが、問題の提起とそれを未来につなごうとする論説はかなり説得力がありました。私自身は古代の西と東(ヨーロッパ、アジア)をつなげる研究テーマをもとにいろいろな資料を集め、修士論文に挑むつもりです。機会があれば古代の話においてもディスカッションしたいと思っています。(50代女性)
・大変勉強になりました。真の歴史、当時の社会背景について詳しく学んでいきたいと思います。また第2弾、第3弾の企画をお願いします。貴重なお話の機会をありがとうございました。(50代男性)
・韓国から日本になぜ渡ってきたのか。チェーンマイグレーションという言葉を初めて聞きました。
具体的な説明がわかりやすかったです。(20代男性)
・在日コリアンの人たちへの考えが変わりかけています。有効な講座であったと感じています。
(80代男性)
朱子学と陽明学の話と、身分制度(とくに中人)について参考になりました。ありがとうございました。(80代男性)
・在日コリアンの歴史について詳しく知ることができた。(70代男性)
・「日本が悪である」という一辺倒なとらえ方はいかがなものか?複眼的な講師の視点に賛同しました。(60代男性)
・日韓併合に至る歴史、大勢の人の韓国からの渡航者の理由についてよくわかりました。(70代女性)
・在日コリアンとして、また韓国名を大切にしながら、歴史に基づいて渡来した在日コリアンの話と、マスコミで見聞きする日韓両国の話のギャップの原因と背景を聞き、目からウロコでした。感謝します。両国に同じような誤解や教育・報道の誤りを実感しました。(80代男性)
・朱子学、陽明学、儒教、身分制度の話など大変わかりやすく話していただき大変よかったです。
(70代男性)
🟪今後定期的に、より深くより詳しく古代から近現代の渡来人に関わる講演やシンポジウム、ディスカッションなどを行い、過去の歴史を今に生かし、私たちの未来に繋げていきます。
ぜひ「渡来人歴史館」にお越しください。お待ちしています。