ライター:Jin Kaneko

日本政府は、「外国為替及び外国貿易法」に基づいて、2002年4月に「補完的輸出規制」(キャッチオール規制/Catch-All Controls)を導入した。

日本政府は「キャッチオール規制」導入前から、「輸出貿易管理令」(輸出令)の別表第1の1~15項に、大量破壊兵器等の開発等や通常兵器の開発等に使用されるおそれがある貨物を具体的に掲げて、輸出又は提供に当たって経済産業大臣の許可が必要となる制度を運用してきた。これは「リスト規制」と通称されている。

「キャッチオール規制」について、経済産業省のウェブサイトは次のように説明している。

「キャッチオール規制は、リスト規制品以外のものを取り扱う場合であっても輸出しようとする貨物や提供しようとする技術が、大量破壊兵器等の開発、製造、使用又は貯蔵もしくは通常兵器の開発、製造又は使用に用いられるおそれがあることを輸出者が知った場合、又は経済産業大臣から、許可申請をすべき旨の通知(インフォーム通知)を受けた場合には、輸出又は提供に当たって経済産業大臣の許可が必要となる制度」

簡単に要約すると「大量破壊兵器や通常兵器の開発などに使われる可能性のある貨物の輸出や技術提供を行う際に、経済産業大臣への届け出と許可を受けることを義務付けた制度」で、従来の「リスト規制」よりも弾力的運用を可能にした貿易管理の制度ということができるだろう。

この「キャッチオール規制」により、「リスト規制」の対象品と、輸出者が大量破壊兵器・通常兵器の開発、製造、使用又は貯蔵に転用される恐れがあると知った輸出品・提供技術、経済産業大臣から許可申請の必要を通知された輸出品・提供技術は、原則として経済産業大臣の輸出許可が必要になったということになる。

出典:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/anpo03.html

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ただし、この「キャッチオール規制」の例外がある。それが「ホワイト国」である。
ホワイト国向けの貨物の輸出や技術の提供については、キャッチオール規制対象から除外されるのである。
ホワイト国とは「輸出貿易管理令」の別表第3に掲げられた以下の27カ国だ。

アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国

大量破壊兵器・通常兵器の開発、製造、使用又は貯蔵に転用される恐れがあると知った輸出品・提供技術については、日本は経済産業大臣の許可が必要な輸出規制の対象となっている。この管理貿易・輸出規制は、韓国を含む上記の恐れのある製品の輸出国も実施することがいわば義務であり、この輸出規制自体は、WTOの趣旨やルールに反するものではない。これが「キャッチオール規制」で、この規制の例外国が「ホワイト国」ということになる。

ホワイト国には、「包括輸出許可制度」という特例的な優遇措置が適用される。
この「包括輸出許可制度」とは、最大で3年分の輸出品について、1度の経済産業大臣の包括的な許可で済むようになるということ。

一方、「包括輸出許可制度」が適用されない非ホワイト国は、輸出案件ごとに、経済産業大臣の許可が必要になる。
経済産業大臣がそれを許可するまでの期間の上限が、行政手続法で定められている。これがしばしば報じられている「最大90日間」である。

ホワイト国は3年に1度、「最大90日間」かかる経済産業大臣の許可を得ることで済む特例があるが、非ホワイト国は毎回輸出ごとに個別的に毎回「最大90日間」かかる経済産業大臣の許可を得なければならない。 これがホワイト国と非ホワイト国の違いだ。

ただし、これらの製品や技術を一切認められない国家も存在する。「輸出令別表第3の2」に定められた国連武器禁輸国・地域である。現状ではアフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダンだ。北朝鮮については、これに加えて、国連安保理の北朝鮮制裁決議に基づく制裁措置が加わる。

最近、韓国政府や韓国メディアは、現在の懸案が北朝鮮制裁違反問題と錯覚し始めたようだが、北朝鮮制裁が位置づけられるのは、ここですから。

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さて、なぜこの27カ国が「ホワイト国」とされているのか?--ということがある。
経済産業省のウェブサイトは次のように説明している。

「大量破壊兵器等に関する条約に加盟し、輸出管理レジームに全て参加し、キャッチオール制度を導入している国については、これらの国から大量破壊兵器の拡散が行われるおそれがないことが明白であり、俗称でホワイト国と呼んでいます」

出典:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/qanda13.html

 

ここで、上記の説明に示されたホワイト国の条件を整理する。

① 大量破壊兵器等に関する条約に加盟している国であること。
② 輸出管理レジームに全て参加している国であること。
③ キャッチオール制度を導入している国であること。
④ ①~③の条約・レジーム・制度に参加・整備し、かつこれらを遵守し、適切に運用している国であること。(推定)

まず、この中の②の「輸出管理レジーム」とは、原子力供給国グループ(NSG)、オーストラリア・グループ(AG)、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)、ワッセナー・アレンジメント(WA)などを指す。これらにすべて参加していることが「ホワイト国」の条件の一つだ。

この②の条件を満たす国家は、日本が「ホワイト国」としている上記の27カ国に、ウクライナとトルコを加えた29カ国である。

なぜ、ウクライナとトルコが「ホワイト国」ではないか?

日本政府がその理由を明示しているわけではないが、経済産業省の説明に明記されている上記の①~③の条件を満たすだけでなく、第4の条件があると推定される。それが上記の④だ。

日本政府としては、ウクライナとトルコの両国は大量破壊兵器拡散防止に向けた十分な取り組みが行われていないと評価・判断していると考えられる。つまり④を満たさないので、この両国を「ホワイト国」にしていないということだ。
こうした条件に合致する国は、現状アジア諸国の中で韓国だけである。

日本の主要貿易相手国である中国は、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)の枠組みにしか参加していないので、②の条件を満たさない。

インドは3つのレジームに参加しているが原子力供給国グループ(NSG)に参加していないので、同様に②の条件を満たさない。
ASEAN諸国はすべてのレジームに参加していないので、やはり②の条件を満たさない。
--よって、アジアの国々の「ホワイト国」は唯一韓国だけということになっていた。
韓国は2004年、小泉純一郎政権の時に、上記の①~④の条件を満たしたことから「ホワイト国」入りしたということである。

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今年7月1日、経済産業省は「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」というリリース(発表文)を公表した。
このリリースには「本日(7月1日)より、大韓民国に関する輸出管理上のカテゴリーを見直すため、外為法輸出貿易管理令別表第3の国(いわゆる「ホワイト国」)から大韓民国を削除するための政令改正について意見募集手続きを開始します」とあった。
さらに「7月4日より、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の大韓民国向け輸出及びこれらに関連する製造技術の移転(製造設備の輸出に伴うものも含む)について、包括輸出許可制度の対象から外し、個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行うこととします。」とあった。
--これが、現在、日韓の対立の原因だ。
このリリースを再整理する。

A ホワイト国から大韓民国を削除するための政令改正(具体的には、輸出貿易管理令」の別表第3の改正)に向けた準備を開始するということ。準備とはパブリックコメントを募集するということ。
B 韓国はホワイト国に指定されているままだが、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目については、7月4日から「キャッチオール規制」の対象とするということ。

なぜ、この措置を講じることになったかの理由について、このリリースの冒頭に簡単に記述されている。これを多少かみ砕いて、世耕経済産業大臣がツィッターで述べていることは、先日の投稿で取り上げた。これに基づいて、その理由を整理する。

また、この措置は、上記の「ホワイト国」の条件④に関する事案であることは間違いない。韓国は①~③の条件は現在も満たしている。

 従来から韓国側の輸出管理(キャッチオール規制)に不十分な点があり、不適切な事案も複数発生していた。
 従来は、日韓の意見交換を通して韓国が制度の改善に取り組み制度を適切に運用していくとの信頼があり、それを土台として、韓国を「ホワイト国」としていたが、近年は日本からの申し入れにもかかわらず、十分な意見交換の機会がなくなっていた。(「意見交換の機会」とは戦略物資会議などの実務会議を指すと見られる。「朝鮮日報」によると、通常は2年に1度開催される戦略物資会議が、朴槿恵政権後期の2016年以降一度も開かれていないという。文在寅政権下でも一度も意見交換の機会なしということ)
 フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目について、韓国に関連する輸出管理をめぐって不適切な事案が発生している。
 今年に入ってこれまで両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次いだ。(これは慰安婦合意の遵守・履行問題、徴用工訴訟の確定判決に関する日韓協議に韓国政府が応じないこと、その他射撃管制レーダー照射疑惑に関する韓国政府の対応、そのほか外交上のさまざまな信頼既存行為を指すものと考えられる)

このうち、の「不適切な事案」がいまいち具体的ではない。このため、いろいろな憶測や拡大解釈が飛び交う原因になっている。韓国はなぜか、日本の北朝鮮制裁をめぐる不適切事案を強調し始め、問題・論点のすり替えが生じつつあることは、以前の投稿で指摘した。

ところで、の「不適切な事案」は別であり、区別しなければならないものであることは注意が必要だ。
また、の問題点については、この以前の投稿で詳しく触れた。このが韓国の問題把握の誤りの原因、ないしは問題の歪曲の原因になり、これが合理的な問題解決を妨げる韓国の対応の原因になっていることは間違いない。
このは、日本政府が韓国への輸出品3品目を「包括輸出許可制度」の対象外とすることや、韓国を「ホワイト国」から除外する正当な理由としては、必要はない。いわば間接的に考慮された背景のようなものだが、文在寅政権は、これを主要な理由として日本に対する対応を続けているため、ややこしいことになっている。

そういう意味で日本政府がに言及しなければ、日韓の議論ももう少し落ち着いたものになった可能性はある。

本来、韓国政府は、上記のホワイト国の条件④を満たしていることを証明すればよいだけの話なのである。しかし、文在寅政権は、これに手を付けようとせず、見当違いの対応で、問題を無駄に難しくして、混乱させる原因をつくっている。