ライター:Jin Kaneko

韓国はWA(ワッセナー・アレンジメント)に加盟したことにより、日本政府の指導のもと、日本のホワイト国指定に向けた準備を開始。2004年に日本政府は韓国をアジア諸国では初のホワイト国に指定した。

このWA(ワッセナー・アレンジメント)などいくつかの管理貿易の枠組みの合意・取り決めとして、大量破壊兵器・通常兵器に転用可能な輸出品について、不正な目的に転用させないための輸出国としての義務を担うことになった。この義務の履行スタイルが日本政府の実施するリスト規制・キャッチオール規制である。

この規制対象の輸出品については、友好国かどうかは関係なく、すべての国の輸出について輸出前に日本政府の審査と許可を受ける必要が生じた。
韓国も同様の輸出管理レジームに参加しているので、同じように義務が生じ、それに対応した貿易管理制度を持つ。

このようにすべての国への輸出品に審査・許可を行うのが大原則だが、日本政府の行う輸出前の審査・許可を代替できる制度を持つ信頼できる輸入国については、この輸出前審査と許可を包括的に行うこととし、個別の輸出許可を簡素化することにした。

この日本政府の行う輸出前の審査・許可を代替できる同等の制度を持ち、これをきちんと運用していて日本政府の代わりに日本の輸出品をきちんと管理してくれると日本政府が認定した輸入国が「ホワイト国」である。リスト規制・キャッチオール規制の対象となる輸出品は個別手続きが原則だが、ホワイト国については包括手続きが採用される。これにより日本の輸出業者の輸出手続きが簡便化する。

-----◆-----

8月2日に、韓国を「ホワイト国」から除外することが閣議決定された。このホワイト国は、具体的には「輸出貿易管理令」の別表第3に掲げられているが、この別表第3から韓国を外す「輸出貿易管理令」の改正が行われたということである(「輸出貿易管理令」は政令なので、国会の議決承認は必要としない)。
なぜ、韓国を「ホワイト国」から除外することになったかについては、経済産業省の7月1日の発表で明らかにされた。

【理由の一つ目】
輸出国である日本と輸入国である韓国の両国政府の、貿易管理に関わる協議が韓国側の理由により長期間途絶えたまま現在に至ってしまったことだ。
韓国のWAに沿った貿易管理上の問題。課題点は、大量破壊兵器のみをキャッチオール規制の対象範囲にしており、通常破壊兵器については現時点で法的根拠が確認できないということである。日本政府もこれを問題・課題として、韓国との政策対話を定期開催しつつ信頼関係を保ってきた。

ところが、韓国政府はここ数年、韓国側が政策対話の開催を拒否して、日本と韓国との政策対話が途絶えてきた。これについて、日本政府は「3年以上前から」という言い方をしている。朴槿恵大統領の弾劾で暫定政権に移行した時期、あるいは文在寅政権発足からということか。少なくとも、文在寅政権になってから今日に至るまで政策対話は行われていないということだ。

それと同時に、日本の経済産業省と韓国の通商産業資源部の対話が途絶えたことにより、日本が輸出した商品が韓国国内で正しく消費されたか、韓国国内の管理状況がどのようになっているかについて、日本政府が把握困難な状況が続いてきた。このため、韓国政府ではなく日本政府が個別的に輸出管理するほうがよいという判断を下す理由の一つになったということである。

ちなみに、この政策対話中止の理由について韓国政府は担当者の不在を理由にした。これは理由にならず、昨年末の問い合わせについても、今年3月末までは政策対話困難としていた。そしてその後も韓国政府から開催可能になったという連絡はなかった。これについて、韓国政府は日本からの問い合わせがなかったからだと回答した。日本政府は開催延期を申し出た韓国政府側から日本政府に対して「開催可能」の連絡がくるのが当然としている。日本政府が感じている韓国政府の不誠実さも、この理由の中に含まれると考えてよい。

【理由の二つめ】
韓国政府において輸出管理がおろそかになる恐れがある短納期発注や2国間貿易で「不適切な事案」が判明したということだ。
日本政府は安全保障上の問題を理由に不適切事案の具体的な内容を明らかにしていないが、これを理由に「韓国との信頼関係が崩れた」(世耕弘成経産相)と判断し、輸出管理の見直しに踏み切ったということである。

これについて、韓国政府・通商産業資源部は今年5月、韓国国会の請求に基づいて、韓国の貿易管理上の不正摘発が156件あったことを資料を通じて回答している。韓国政府はこれについて、これは摘発件数であり、韓国の貿易管理制度が適切に運用されている証拠としている。ただし、この摘発件数の多さは、非ホワイト国の香港やシンガポールより遥かに多い件数であり、摘発を逃れた件数を含め他国を圧倒していることは明らかで、明確に韓国の貿易管理制度が機能していない証拠であるという見方がある。

その他、たとえばフッ化水素などの貿易管理対象の製品について、不自然に消費を上回る量が輸出され、用途・消費が不明になっているものが存在するという指摘がある。輸出量と、韓国において正常に使用されたと見積もられる量に差があるということだ。

輸出国としてエンドユーザーを特定して正常な目的で使用されたことを確認したい日本政府としては、こうした疑問を問題視している可能性がある。ただし、日本政府はこうしたことを言っていない。

-----◆-----

韓国政府の問題をあげるとすれば、日本政府が理由としてあげる韓国の状況について、韓国政府は無視した。国内状況を調査したり、制度の運用状況をチェックしている・したという発表はいっさいないということだ。

その一方で、韓国政府は「自由貿易の原則・ルールを破る、報復的な不当な措置である」という認識を繰り返し、その不当性を訴え撤回を要求するとともに、その韓国側の認識を前提にした対抗措置を講じる方向だけに突き進んでいる。このため、日本政府と韓国政府が話し合う接点すら見いだせないという状態になっている。

なお、韓国政府は韓国のホワイト国除外を、日本政府が韓国を非友好国扱いにするものだと騒いでいるが、有効国か非有効国かは「ホワイト国」と関係がない。日本政府の指定する「ホワイト国」の条件は以下の通り。友好国であっても、以下の条件を見なさないとホワイト国には認定しない。また、韓国をホワイト国に認定した2004年以前、日本政府は韓国を非友好国としていたわけではない。

① 大量破壊兵器等に関する条約に加盟している国であること。
② 輸出管理レジームに全て参加している国であること。
③ キャッチオール制度を導入している国であること。
④ ①~③の条約・レジーム・制度に参加・整備し、かつこれらを遵守し、適切に運用している国であること。

-----◆-----

8月2日の「輸出貿易管理令」の改正で、「ホワイト国」という分類名称はなくなった。
旧ホワイト国はグループAとなる。その下にグルーブB~Dが続く。カテゴリーが1つ増えたということ。
かつての非ホワイト国は改めて、グルーブBとグルーブCに分類されることになった。
グループDは紛争国や北朝鮮のような国で、原則輸出を認めない国である。これは「輸出貿易管理令」の別表第3の2および別表4に書かれた国だ。
グループBは、貿易管理レジームに所属する、グループAを除く国と説明されていてる。この改正で、韓国はグループBに所属となった。

つまり、従来の非ホワイト国よりも、輸出手続きが簡便になった可能性がある。改正を詳しく見ているわけではないので、そのあたりは私にはうまく説明できない。

参考:経産省HP
(https://www.meti.go.jp/press/2019/08/20190802001/20190802001.html?fbclid=IwAR2xuToadNTSqOx2JBqkEjfnfIGQ_hjizKBPUANm4zpOLE-7RrvH2WJjxJs)

-----◆-----

昨今の日韓両国政府の関係が非正常であることは疑いのないことで、この決定に際して、さまざまな膠着した対立課題がこの決定に影響したか、しないかは明らかではない。

しかし、この貿易管理制度に即して考えると、こうした外部の理由で韓国をホワイト国から除外したということは、制度上、正当な理由にはなり得ない。
そういう意味では韓国政府は、日本政府が公式的に表明した上記の2つの理由に限定して問題を解決する方向に進んでいたら、今頃、この問題は、韓国政府の希望通りに解決していた可能性は、かなり高いと思う。

文在寅政権が誤った問題の捉え方をして、誤った対応を今なおし続けていることは、まことに残念なことだと言うしかない。