イラスト:安ビョンヒョン

先週、ベルリンの壁崩壊30周年を迎えて開かれたセミナーに出席するため、ドイツに行ってきた。 ドイツは、北朝鮮の外交官だった時、何度も訪問したことがある。 2004年ロンドン駐在北朝鮮大使館参事として派遣され、ロンドンに行く時には家族全員がベルリンに立ち寄ってブランデンブルク門とベルリンの壁を見回ることもした。 その時が昨日のようだが、大韓民国の国民になってまた行ってみたら、感無量だった。

ベルリンの壁が崩壊した日の1989年11月9日は私が北朝鮮外務省に入ってから1年ほど経った時だった。 20代後半’赤い外交官(共産党外交官)’だった私は、東ドイツが’水を飲んだ垣のように'(北朝鮮の農村では、セメントが不足するので家を建てる時、木台に泥を塗った後表にセメントを少し塗る。 工事中に雨が降ると土が洗い流され、壁が崩れることがしばしばある)が崩れ落ちるのを見て衝撃を受けた。

金日成(キム・イルソン)主席と金正日(キム・ジョンイル)総書記は東ドイツの失策を分析するよう外務省に指示した。 見てみると、最大の間違いは、東ドイツ政権が社会主義福祉システムさえうまく運営されれば、住民が西ドイツの放送を見ても資本主義に染まらないと考えたという点だ。 現実は反対だった。 1970年代から西ドイツTVを見てきた東ドイツの住民は西ドイツTVに映った物質的豊かさと政治的自由に魅惑された。 当局の監視さえあれば統制が可能とみて、東西ドイツの住民間で通行と書信交換を許可したことも大きな失策だった。 決定的なきっかけは1989年8月、ハンガリーがオーストリアとの国境制限を解除し、東ドイツ住民一万人あまりが一気にハンガリーを通じて西ドイツに脱出したものだった。

金氏一家は、北朝鮮住民が中国やロシアを経由して大量に脱北すれば、休戦ラインも水を浴びた壁のように簡単に崩れることができるという教訓を得た。 金正日(キム・ジョンイル)総書記は、資本主義不純思想が北朝鮮内部に入らないよう、「窓を開ける前に、徹底して防虫網から先に張るべきだ」という「蚊帳理論」を発表した。

ドイツ統一が急速に進むと、ベルリンに出かけていた北朝鮮の外交官らは、「大金は建国と亡国の時に稼がなければならない」と、一獲千金を狙い素早く動いた。 西ドイツ政府が東ドイツ貨幣をどのように処理するかに関心が集まった。

一部のマスコミでは、西ドイツが東ドイツ貨幣の無効化を宣布し、クーポン制を実施すべきだと主張し、専門家らは現実価値に合わせて交換比率を決めるべきだと主張した。 当時、東西ドイツ間の公式為替レートは2対1だったが、国家不渡りの状態に達した東ドイツの貨幣はほとんど紙切れとされた。 闇市場には4対1で交換されていた。

強心臓の持ち主だったある北朝鮮外交官は’統一になると東ドイツ住民にも西ドイツと同じレベルの暮らしを保障する’と言うコール首相の言葉が掲載された新聞1面記事をはさみで切り取って胸に入れていた。 彼は大使館の同僚はもちろん、北朝鮮の会社にいた知人にも連絡を取り、数十万マルクをベルリンに持ち込んで闇市で東ドイツのマルクを買い入れた。 数ヵ月間、胸はドキドキしていた。その後貨幣の交換比率が1対1で決まる奇跡が起きた。 西ドイツ政府は、東ドイツ駐在外交官の口座にあった東ドイツマルクをすべて交換した。

隣の同僚が一獲千金を手にするのを見た大使館職員たちは次の作戦を準備した。 東ドイツの通話価値が2倍以上に切り上げられ、東ドイツ住民は万歳を叫んだが、東ドイツ企業は、破産に直面した。 北朝鮮の外交官数人が売りに出された安価な東ドイツ産のチョコレートと手風琴を大量に購入し、北朝鮮に送った。 中国制やソ連制だけを見てきた北朝鮮住民に大人気だった。 ドイツに出張するたびに、妻と同僚がチョコレートを頼んだ。 財政が苦しく、安価な商店であるリドル(LIDL)やアルディ(ALDI)でチョコレートを買った。

その時思い出して今度ドイツに行った時、リドルに立ち寄ってチョコレートを買った。 妻と子どもたちに渡したら、「韓国に来て世の中がいい」というチョコレートを全部味わったのに、ドイツのチョコレートが最高だと言う。

ベルリンの壁が崩れた時私は30年後には韓国も統一されるだろうと考えた。 今年が万30年になる年であるが統一は実現しなかった。 この歴史的課題を解く日は、果たしていつ来るのだろうか。

太永浩(テ・ヨンホ)
太永浩 は、朝鮮民主主義人民共和国の外交官として、ロンドンにある在イギリス大使館に公使として在任中の2016年7月にイギリスを出国、8月に大韓民国に亡命した脱北者である。

朝鮮日報
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