ライター:Jin Kaneko氏整理

《植村さんの櫻井よしこさんらへの慰安婦訴訟で、植村さんの敗訴が確定》
 植村隆さん(元朝日新聞記者、「週刊金曜日」発行人兼社長)の訴訟で、最高裁は上告棄却、植村さんの敗訴(請求を棄却した一、二審判決)が確定した。
 良い機会なので、この問題の事実経過を整理しておくことにした。投稿の最後に、この件に関する私見を追加。
 植村さんは、事実に基づかない中傷(1991年の元慰安婦の証言を伝える記事を「捏造」と記述されたことなど)で激しいバッシングを受け名誉を傷つけられたとして櫻井よしこさんと出版3社(ワック、新潮社、ダイヤモンド社)に計1650万円の損害賠償などを求める訴訟を2015年、札幌地裁に提起した。
 その一審(札幌地裁)判決が2018年11月に出され、植村氏の記事が事実と異なると櫻井氏が信じる「相当の理由があった」と植村さんの請求を退けた。今年(2020年)2月の二審(札幌高裁)判決も一審を追認。植村さんは最高裁に上告していた。
 これは植村さんが朝日新聞大阪本社社会部に所属していた時に書いた同紙1991年8月11日付の大阪版27⾯に掲載された記事「元朝鮮⼈従軍慰安婦 戦後半世紀重い⼝開く」(植村隆韓国特派員・ソウル発)記事を指す。
 この記事について櫻井さんが「捏造」「意図的な虚偽報道」などとする論文を執筆したことについて、植村さんは事実に基づかない中傷として名誉棄損を訴えた。
 この記事で、植村さんは韓国人元慰安婦として初めてcoming outした故・金学順(김학순)さんの証言に基づいて書いたものとした。ただし、植村さんが金学順さんを直接取材したわけではなく、義母の梁順任(양순임)さん(太平洋戦争犠牲者遺族会幹部)を通じて、旧・挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)が行った金学順さんの聞き取り調査の録音テープを入手。植村さんは、この録音をもとに前述の記事を書いたものである。当時、旧挺対協は元慰安婦証言を得るため聞き取り調査を開始していた、その一環として録音された金学順さんからの聞き取りの録音である。
 この記事で、植村さんは、金学順さんの名前を伏せて、〝「⼥⼦挺⾝隊」の名で戦場に連⾏され、⽇本軍⼈相⼿に売春⾏為を強いられた「朝鮮⼈従軍慰安婦」のうち、⼀⼈がソウル市内に⽣存している〟(記事)と書いた。また、〝⼥性の話によると、中国東北部で⽣まれ、⼗七歳の時、だまされて慰安婦にされた。⼆、三百⼈の部隊がいる中国南部の慰安所に連れて⾏かれた。慰安所は⺠家を使っていた。〟(記事)と記述した。
 まず、女子挺身隊については、吉田清治が「済州島で軍の命令により、女子挺身隊として朝鮮女性を動員した」といった証言を行っていたものの、慰安婦はまったく別もの。女子挺身隊に関する知見は当時でも十分得られた。したがって、〝「⼥⼦挺⾝隊」の名で戦場に連⾏され、⽇本軍⼈相⼿に売春⾏為を強いられた「朝鮮⼈従軍慰安婦」〟は間違い。
 また、この植村記事が掲載された3日後の同年8月14日、金学順さんは記者会見を行った。この会見で金学順さんが述べたことと、植村記事の内容に齟齬があり、「⼗七歳の時、だまされて慰安婦にされた」という記述の誤りも明らかになった。この記者会見で金学順さんは「⽣活が苦しくなった⺟親によって14歳の時に平壌のあるキーセン検番(置屋)に売られた。3年間の検番⽣活を終えた⾦さんが検番の義⽗に連れていかれたところが、華北の⽇本軍300名余りがいる部隊の前だった」と証言している。
 朝日新聞社も2014年12月23日、上記の植村記事について、『記事の本文はこの女性の話として「だまされて慰安婦にされた」と書いています。この女性が挺身隊の名で戦場に連行された事実はありません。前文の「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され」とした部分は誤りとして、おわびして訂正します。』と謝罪・訂正する記事を掲載している。
 これについて、櫻井よしこさんは『週刊新潮』2014年4月17日号で、「(植村は)韓国の女子挺身隊と慰安婦を結びつけ、日本が強制連行したとの内容で報じた」「挺身隊は勤労奉仕の若い女性たちのことで慰安婦とは無関係だ。植村氏は韓国語を操り、妻が韓国人だ。その母親は、慰安婦問題で日本政府を相手どって訴訟を起こした「太平洋戦争犠牲者遺族会」の幹部である」とし、「植村氏の「誤報」は単なる誤報ではなく、意図的な虚偽報道と言われても仕方がないだろう」と書いた。
 前述のとおり植村さんの奥さんは太平洋戦争犠牲者遺族会幹部の梁順任さんの娘。太平洋戦争犠牲者遺族会は植村記事から4か月後に、日本政府を相手取って「アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件」(日本政府に損害賠償を求めた初の裁判)を提起しており、植村さんは身内の利害関係者から得た情報をもとに、その裁判に関連する記事を書いたことになる。櫻井さんはこの問題も指摘したわけだ。
 次いで、櫻井さんは『週刊ダイヤモンド』2014年8月23日号では、植村記事が「日中戦争や第二次大戦の際、『女子挺身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、一人がソウル市内に生存」と書いた事は、「うら若い女性たちを外国の軍隊が戦場に連行し、売春を強制したと想像できる」から、韓国世論を激しく刺激したと述べた。次いで同誌10月18日号で「朝日は当時、挺身隊と慰安婦は混同されていたと釈明したが、年配の人なら、およそ全員が両者は別物と知っていたはずだ。植村氏は金氏の言葉を裏取りもせずに報じたのか」と書いた。
 一審(札幌地裁)で、植村さんは、大学就職の内定を取り消さざるを得なくなったことや勤務していた大学や家族が脅迫された原因は、櫻井の記事によって名誉を棄損されたことにあるとして損害賠償を求めた。これに対し、札幌地裁は、櫻井さんの記事記述は植村さんの社会的評価を低下させたことを認めたものの、植村記事が事実と異なると信じる相当の理由があり、記事を書いた目的にも公益性があるとして植村の請求を棄却した。
 この判決を不服とした植村さんは控訴。しかし、札幌高裁は2020年2月6日、植村の訴えを退けた札幌地裁1審判決を支持し請求を棄却、植村側の敗訴となっていた。
 植村さんはこれと同時期、文藝春秋社と記事を執筆した西岡力さん(当時・東京基督教大学教授、現在は麗澤大学客員教授)に対し1650万円の損害賠償などを求める訴えを東京地裁に起こしている。
 東京地裁は2019年6月26日、植村が起こした文藝春秋と西岡力さんに対する損害賠償請求も棄却した。この時、東京地裁は西岡記事を「指摘は公益目的で、重要部分は真実」と認定している。
 東京地裁は、西岡さんが記事中で指摘した植村さんが金学順がキーセン学校に通っていたという経歴を故意に隠したという点と、義母が韓国遺族会の幹部であったことから、植村が義母の裁判を有利にするために意図的に事実と異なる記事を書いたという点について推論に「真実相当性」を認めた。また、西岡さんが記事中で、植村さんが金学順が女子挺身隊として日本軍によって戦場に強制連行されたという事実と異なる記事を書いたと指摘したことについて、東京地裁は植村さんが「金学順が日本軍によって強制連行された」という認識はなかったのに、あえて事実と異なる記事を書いたとして、西岡さんの指摘に真実性があるとした。
 植村さんもこの東京地裁判決も不服として東京高裁に控訴したが、東京高裁は2020年3月3日、植村さんの訴えを退けた東京地裁1審判決を支持し請求を棄却する判決を下し、植村敗訴となった。