ライター:齋藤 拓司

残念ながら、「多くの香港市民が自由と民主主義を守るために中国と闘っている」という認識は事実とは異なっている。

大多数の香港市民は「逃犯条例」は安定と安全のために必要であり、自分は何も悪いことはしていないから関係ないと考えている。自由とか民主という理念には関心はなく、そもそも英国時代から民主的な選挙などなかったから、政治的自由が何かすら知らない。

かつての貧しい中国は嫌だが、今や中国は軍事的、経済的に世界の最強国の一つ。中国人であることを誇りに思い、偉大な中華民族の復興というスローガンに夢を託す。中国の富裕層は自由に海外旅行し、高級車にも乗れるのだから、独裁でも全体主義でもなく中国的な自由社会で法治国家だと考えている。

長く一緒に仕事をした香港人パートナーは中国こそ世界のリーダーで、香港の民主派は外国勢力に操られた敵性勢力。デモに参加する若者は不満分子。いずれも公共の敵ゆえに徹底して取り締まるべし、と息巻いている(彼とは仕事では多少付き合いはあるが、友人関係は完全に切れた)。

彼の本質は中国人意識の強いナショナリストで、香港の民主派だけでなく、台湾の民進党勢力や台湾人(内省人)を徹底して毛嫌いしている。年に何回も家族で日本旅行しておきながら、尖閣はもとより沖縄すら中国領だと言って憚らない。

中国と深いビジネス関係があり、頻繁に中国と行き来している自分の業界では、こうした連中が圧倒的多数であり、反中共と自由民主主義を主張する自分は「日本仔」(日本人への蔑称)と陰口を叩かれ、中国の治安を撹乱する敵性外国人と思われている。

雨傘運動の時、連中のこうした本性が現れたので、以来、自分は香港に愛想を尽かし、残る人生、徹底して中国と闘わねばと思った次第だ。