◆「SCAPIN-677」は、韓国の独島領有の根拠にはならない

この主張の事実誤認を説明するためには、まずSCAPINとは何かの説明から取り掛からないといけないでしょう。
SCAPINとは、日本の占領を行う連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)が日本政府に発した指令です。
SCAPINの基本理解として把握していなければならない、第1点目は、軍政当局の命令ですから、SCAPINの効力は、日本の占領期間中(1945年9月2日~1952年4月27日)に限られるということです。

韓国政府は、サンフランシスコ平和条約発効後のSCAPIN-1033の効力が引き続き保たれるように、サンフランシスコ平和条約にSCAPIN-1033と同内容の取り決めを盛りこむことを求めていたことから、この点については、一定の理解がなされていたと考えてよいと思います。
ところが、前述の卞榮泰外務部長官の書簡の内容に見られるとおり、「SCAPIN-677」を根拠とした独島の領有主張を行っています。その後、慎鏞廈も同様の主張を行ったことは前述の通りです。この点に注目すると、SCAPINの基本理解ができていないと言わざるを得ません。

さて、卞榮泰外務部長官が根拠とした「SCAPIN-677」です。
これは、1946年1月29日付で日本政府に通達されたもので、「若干の外郭地域を政治行政上日本から分離することに関する覚書」(Governmental and Administrative Separation of Certain Outlying Areas from Japan.)というタイトルが付けられていました。この通達の指令(命令)とは、一定の範囲を定めて、その範囲外の日本の主権(施政権)行使を占領期間に限って限定的に停止するというものです。

卞榮泰外務部長官は、こうした理解ではなく、占領軍が日本の主権(領土)の範囲を決定して、日本に通達したと受け止めました。この「SCAPIN-677」は、「独島・済州島・巨文島」が範囲外とされていたので、「すなわち、これらの島々は韓国の領土である」と結論付けた主張を行ったわけです。

卞榮泰外務部長官は書簡に「SCAPIN-677」の要約を同封していますから、「SCAPIN-677」の全文を読むことのできる状態だったと思われますが、肝腎な条文を読み忘れています。あるいは、意図的に取り除いています。
それは「SCAPIN-677」の第6項です。以下、その条文を示します。
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6. Nothing in this directive shall be construed as an indication of Allied policy relating to the ultimate determination of the minor islands referred to in Article 8 of the Potsdam Declaration. (6.この指令中の条項は何れも、ポツダム宣言の第8条にある小島嶼の最終的決定に関する連合国側の政策を示すものと解釈してはならない。)
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この条項は、要するに、「SCAPIN-677を、日本の領土の画定を指令したものと受け止めてはならない」ということです。

卞榮泰外務部長官の主張の間違いは、この条項からも明らかですが、その間違いを別の観点からも指摘できます。

なぜ、このような条項(SCAPIN-677の第6項)を盛り込んだのでしょうか。

GHQ/SCAP(連合国軍最高司令官総司令部)は、〝国際法上の国家の主体〟ではないために、国家の主権である「領土」について決定することはできません。また、1945 年のアメリカ国務省陸軍省海軍省調整委員会の「降伏後における米国の初期の対日方針」において、「連合軍に領土処理は許可しない」と明記しています。
GHQ/SCAPには、日本の領土を画定する権限を与えられていないというとです。
よって、GHQ/SCAPの発令したSCAPIN-677およびSCAPIN-1033(マッカーサーライン)は、日本の領土確定とは無関係ということになります。

また、日本の領土の画定は、軍政当局(GHQ/SCAP)だけではなく、日本以外の他国の政府でさえも決定して、それを日本に押し付けられないからです。それをやると、国際法違反ということになります。

だから、サンフランシスコ平和条約の第2条において、朝鮮半島本土とその島嶼を含む戦中までの日本の海外領土を、日本自身が自らの意思で放棄する条項を盛り込んだわけです。
--ここは、たいへん重要なポイントです。

卞榮泰外務部長官のSCAPIN-677を根拠とした独島領有主張の間違いを理解できたでしょうか。
たいへん重要なポイントなので繰り返しますが、SCAPIN-677は日本が独島の領有を放棄した根拠にはならない(すなわち、独島が韓国領である根拠にはならない)ということです。

国際法上、「征服」の権原は第1次世界大戦以降、不法になりました。つまり、軍事的に占領した他国領土を、自国の領土に組み入れたり、あるいは第三国の領土に併合・編入することは不法ということです。卞榮泰外務部長官が主張する通り、SCAPIN-677を根拠にできるということは、この「征服」に他なりません。

この考え方は今日においても重要です。
たとえば、イラク戦争に勝利したアメリカ軍が、仮にイラクの領土を分割して、同国領内のクルド人地区を領土分割して独立させたなどということがあれば重大な国際法違反になります(アメリカ軍やアメリカ政府は実際はそれをしていませんが)。
また、ロシアがウクライナ領土であったクリミアを分離して独立させたうえ、ロシア領に編入するということがありました。これも、国際法上の重大な疑義があります。名目的にクリミアが分離・独立したというプロセスをはさんでいるので事情は複雑ですが、ウクライナの意思に反した領土の分離という点に、国際法上の重大な疑義が生じるわけです。